近年、地球温暖化や気候変動への対応として「脱炭素」が世界的な話題となっています。脱炭素とは、地球温暖化の原因となる温室効果ガス(CO₂(二酸化炭素)やメタンなど)の排出を極力抑える(「実質ゼロ」にする)取り組みを指します。本記事では、日本の現状と脱炭素に向けた業界別の取組みについて解説していきます。
1.日本の現状
環境省が2023年4月に発表したデータによると、2021年度における日本の温室効果ガス排出量のうち約91%がCO₂となっています。
2021年度におけるCO₂排出量は、菅元内閣総理大臣がカーボンニュートラルを宣言した2013年度に比べ20.3%減少していますが、2030年度、2050年度の目標において道半ばです。
2050年カーボンニュートラルに対する進捗
出典:環境省「2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要」
2.エネルギー産業
日本におけるCO₂排出量の約85%相当がエネルギー起源であり、排出量削減が急務の課題となっています。
環境省によると、エネルギー産業の脱炭素化において最も重要な役割を担うのが電力です。その中でも、電力部門の主力となっている火力発電所からのCO₂排出量を大幅に削減することが必要です。
エネルギー産業においては脱炭素化に向けて、将来的に主力電源が火力発電から再生可能エネルギーへ変わるよう、次のような技術を組み合わせて代替することが求められます。
・水素やアンモニアなどCO₂を排出しない「CO₂フリー電源」
・発電所や化学工場などから排出されたCO₂を、他の気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入する「二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)」
・分離・貯留したCO₂を利用する「CCUS」
・蓄電池
ガス別の排出量の推移
出典:2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要
部門別のCO₂排出量
出典:環境省「2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要」より作成
3.建設業
建設業では、建物におけるエネルギー効率の向上、エネルギー消費の削減を目的として、平成27年7月に建築物省エネ法が制定されました。2025年4月には、新しく建築される全ての建築物に対して省エネ基準の適合が義務付けられる予定です。
また、近年国内では年間の「一次エネルギー(冷暖房や照明など、住宅を使用することで発生するエネルギーを熱量に換算したもの)」の消費量に関し、収支をゼロとすることを目指したネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング「ZEB(ゼブ)」の建設も増えてきています。ZEBに関しては、補助金制度・支援制度なども掲載した「ZEB PORTAL」を環境省が開設しています。
ZEBを実現するための技術
出典:環境省「ZEB PORTAL」
4.運送業
運送業ではCO₂排出量が年々減少しており、さまざまな対策の成果が明確に表れています。例としては、より少ない排出量の輸送機関への転換を図るモーダルシフト、輸送効率化、電気トラックや燃料電池トラックなどの次世代トラックの採用、バイオディーゼル燃料の導入などが挙げられます。
運送業では脱炭素に対し有効的な施策を実行している一方で、ドライバー不足など労働環境に関する課題が山積しています。後続車無人隊列走行技術や自動運搬船の採用による運送の省エネ化、集配の最適化などラストワンマイル(最寄りの配送所から顧客へ商品を届けるまで)の効率化、運送処理のデジタル化などDXを行うことで、労働環境の整備だけでなく、さらなる脱炭素を目指しています。
5.製造業
製造業では、製品の生産や工場の運転に大量の熱エネルギーを使用するため、多くの温室効果ガスを排出します。そのため、エネルギーの脱炭素化はもちろん、高効率ボイラーやヒートポンプなどの高効率機器や最適なエネルギーマネジメントを実現するIoT技術の導入など、製造工程における脱炭素化が不可欠です。
その他、AIなどを活用したDXの推進やGHGプロトコルに準拠した企業の温室効果ガス排出量の算定と報告による視覚化、事業活動全般に伴う温室効果ガス排出量(サプライチェーン排出量)の算定と報告も重視されています。
製造業の脱炭素化にはコストがかかるため、環境省が「工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業」によって、脱炭素化の計画策定や設備更新にかかる費用の援助をしています。
サプライチェーン排出量とは?
出典:環境省「サプライチェーン排出量 概要資料」
6.小売業(卸売業を含む)
小売業は他の業種と比べ脱炭素への対応が遅れていましたが、近年の環境配慮意識の高まりを背景に経営課題として認識されるようになりました。業界全体での取組みで顕著なのは、店舗運営における使用電力を再生可能エネルギーにすることです。具体的には、高効率照明の導入や、冷暖房の使用によるCO₂排出量削減のための既築建築物の断熱改修、再生可能エネルギーによる電力供給などが多くの企業で導入されています。
7.飲食業
飲食業や食品関連事業者から発生する食品ロスが大きな問題となっており、これに対する役割や取組みが求められています。政府は食品リサイクル法に基づき、食品廃棄物を減らす取組みを企業に促進しており、2030年度までに2000年度比で食品ロスの発生量を半減させることを目標としています。
具体的には、食べ残しの持ち帰りを推進する「mottECO(モッテコ)」の普及、納品期限の緩和など商慣習の見直し、家庭で余っている食品を集めて、食品を必要としている地域の生活困窮者支援団体、子ども食堂、福祉施設等に寄付する「フードドライブ」、製造工程で発生する規格外品などを福祉施設等へ提供する「フードバンク」の活用など多様な取り組みが行われています。また、CO₂排出量の削減を実現するために、脱プラスチックや再生紙やバイオプラスチックによる環境に優しい包装材を積極的に取り入れています。
スターバックスコーヒージャパンの取組み
出典:スターバックス ストーリーズ ジャパン「プレスリリース(2021/11/29)」
日本マクドナルドホールディングスの取組み
出典:日本マクドナルドホールディングス
8.まとめ
脱炭素の実現に向けた取組みは業種別に異なりますが、設備投資や大きな変革を要しながらも加速しています。企業そして消費者の環境に対する意識は高まっており、これを一過性のものではなく持続的なものとして継続していくことが重要です。
金融機関としても、脱炭素に関わる各業界の動向を把握しておくことは重要です。サステナビリティに取り組む企業や団体への支援を考える際、その業界の課題や取り組みについて理解を深めることにより、より適切でスムーズな支援策を提案できるようになるでしょう。
リクロマ株式会社
マーケティング担当
磯部絵理佳